2008.09.06(Sat)
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2007.10.20(Sat)
長光の夕焼けに染まりし空に茜雲が浮かぶ、現在の時刻は一六三〇(ヒトロクサンマル)。 倶楽部から帰る途中、煉瓦造りの兵学校の校舎を眺める体格の良い一種軍装姿の男を見た。 「久しぶりだな。」 九州男児らしい、彫深で意志強固そうなな武張った顔は忘れる事など決してない。 三号生徒の間約一年間二人を厳しく可愛がってくれた小暮信二生徒(海兵72期)である。 突然の再会に驚いたあと、日の光のように暖かく何処か懐かしい感情に芯から包まれる。 向こうも可愛い後輩の顔を久々に見ることが出来ていつもより少し柔和な顔になっている。 彼の首に目をやると、その襟章は金色の道を挟む太く黒い線の間に真新しい一厘の桜が見える。 「少尉になられましたね。」 「ああ、おかげさまでな。」 それからしばらく他愛もない昔話に花を咲かせた。 兵学校での上下関係はよく家族に例えられ、教官を父、先輩を兄とする。 特に小暮との仲は今思えば実の兄弟よりも深いものだったかも知れない。 現在彼は帝国海軍のある大物の配下に置かれ、重宝されているらしい。 海兵時代の勇猛である上に隠れた思いやりのある姿を思い出し、さすがだと改めて感心した。 「ところで、今回はどういったご用事で江田島に来られたのですか ?」 その問いの後一瞬だけ先輩将校が顔を強張らせたのを、二人は見逃さなかった。 だが彼は、すぐに元の頼もしい笑顔に戻って答えた。 「軍機だ。」 将校としてはまだ 新人である少尉という身分で軍の機密事項に関わるとは、少しばかり驚いたがこの男が嘘をつく人間でないことはよく知っている。 小暮は去り際に二人に伝えた。 「今夕一八〇〇、兵学校の正門へ来てくれ・・・・・・いいものを見せてやる。」 その後、だんだん遠くなってゆく大きな背中を二人はじっと見送った。 このとき村瀬は小暮が見せた情け深い微笑みの内に影を覚えた。 その影に先輩自身が走って向かってゆくような気がした。 空しくそしてどうしようもなく絶望的な感覚に陥る。 次に正門で別れた後もう二度と小暮生徒に会うことはないと思った。 村瀬は心の中で泣いていた、だがその涙が決して表に出ることはなかった。 ただ、小暮が去っていった後を遠く、遠く見つめているだけだった。 彼の中の暗闇を、それに向かっている姿をただ一点見つめるだけだった。 そして、自分も石川も確実に同じ漆黒の影に向かって歩んでいることを悟った。 「村瀬、どうした。」 「武士道といふは死ぬ事と見つけたり・・・・・・か。」 村瀬はあどけなさを残しながら小暮と同じ微笑を親友に向けた。 その台詞は葉隠から最初に学んだ言葉だった。
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