2008.07.24(Thu)
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2007.10.20(Sat)
長光の夕焼けに染まりし空に茜雲が浮かぶ、現在の時刻は一六三〇(ヒトロクサンマル)。 倶楽部から帰る途中、煉瓦造りの兵学校の校舎を眺める体格の良い一種軍装姿の男を見た。 「久しぶりだな。」 九州男児らしい、彫深で意志強固そうなな武張った顔は忘れる事など決してない。 三号生徒の間約一年間二人を厳しく可愛がってくれた小暮信二生徒(海兵72期)である。 突然の再会に驚いたあと、日の光のように暖かく何処か懐かしい感情に芯から包まれる。 向こうも可愛い後輩の顔を久々に見ることが出来ていつもより少し柔和な顔になっている。 彼の首に目をやると、その襟章は金色の道を挟む太く黒い線の間に真新しい一厘の桜が見える。 「少尉になられましたね。」 「ああ、おかげさまでな。」 それからしばらく他愛もない昔話に花を咲かせた。 兵学校での上下関係はよく家族に例えられ、教官を父、先輩を兄とする。 特に小暮との仲は今思えば実の兄弟よりも深いものだったかも知れない。 現在彼は帝国海軍のある大物の配下に置かれ、重宝されているらしい。 海兵時代の勇猛である上に隠れた思いやりのある姿を思い出し、さすがだと改めて感心した。 「ところで、今回はどういったご用事で江田島に来られたのですか ?」 その問いの後一瞬だけ先輩将校が顔を強張らせたのを、二人は見逃さなかった。 だが彼は、すぐに元の頼もしい笑顔に戻って答えた。 「軍機だ。」 将校としてはまだ 新人である少尉という身分で軍の機密事項に関わるとは、少しばかり驚いたがこの男が嘘をつく人間でないことはよく知っている。 小暮は去り際に二人に伝えた。 「今夕一八〇〇、兵学校の正門へ来てくれ・・・・・・いいものを見せてやる。」 その後、だんだん遠くなってゆく大きな背中を二人はじっと見送った。 このとき村瀬は小暮が見せた情け深い微笑みの内に影を覚えた。 その影に先輩自身が走って向かってゆくような気がした。 空しくそしてどうしようもなく絶望的な感覚に陥る。 次に正門で別れた後もう二度と小暮生徒に会うことはないと思った。 村瀬は心の中で泣いていた、だがその涙が決して表に出ることはなかった。 ただ、小暮が去っていった後を遠く、遠く見つめているだけだった。 彼の中の暗闇を、それに向かっている姿をただ一点見つめるだけだった。 そして、自分も石川も確実に同じ漆黒の影に向かって歩んでいることを悟った。 「村瀬、どうした。」 「武士道といふは死ぬ事と見つけたり・・・・・・か。」 村瀬はあどけなさを残しながら小暮と同じ微笑を親友に向けた。 その台詞は葉隠から最初に学んだ言葉だった。
2007.10.20(Sat)
1. 紹介する作品名をどうぞ。 葉隠、村瀬のもらった佐賀藩、鍋島武士道の書物からとりました。 2. 作品の形態を教えてください。 兵学校生徒の心境や日本についてを書く、軍事的、心理的、SF的? 3. この作品のジャンルは何ですか? 純文学だと思う。 4. 作品の舞台はどこですか? 約60年前の広島県江田島。 5. 簡単にこの作品の概要(あらすじ)をお願いします。 映画「あゝ江田島」の二次創作。 鬼の一号生徒、小暮信二は卒業式の日村瀬に佐賀藩の武士道の書「葉隠」を手渡した。 先輩への敬意を込め熱心に勉強する村瀬の前にある日妖しい軍艦と謎の男が現れ……。 6. この作品の雰囲気は? 少し暗めシリアス。 7. メインの登場人物は何人ぐらいですか? 4人くらい。 だいたい今出てきている人物です。 8. メインの登場人物たちの簡単な特徴・紹介などを教えてください。 村瀬生徒…おとなしくて考えすぎてしまう思慮深い人、小暮生徒を信頼する。 石川生徒…熱血で友達思いの思いやりのある人、村瀬のことを常に気にかけている。 小暮生徒…厳格で誰よりも村瀬のことを理解する人。鬼軍曹的。 謎の男…葉隠を昔愛読していたらしい、不思議なムードを漂わす人。 9. 作品で見てもらいたい(注目してほしい)ところはどこですか? 登場人物の心情、感情描写。 10. この作品で気に入っている登場人物や気に入っている点などがあれば教えてください。 村瀬真一、感情豊かなところ。 11. その他、作品について書きたいことがあれば思う存分にどうぞ。 謎の男の正体は私のオリジナルではありません。 12. お疲れ様でした。最後に作品をご覧になる方にメッセージをお願いします。 更新ゆっくりですが楽しんでごらんください。 あなたにとって良い作品になることを願って。 質問配布元:6倍数の御題
2007.01.28(Sun)
あれから三時間、正体不明の軍艦と男の事がどうしても脳裏から離れる事が出来なかった。 楽しいはずの囲碁倶楽部の間も、あの軍艦のオーラに呼び覚まされる。 村瀬の目線は親友は勿論のこと、周囲の人間にもふわふわと何処かへ行ってしまっているように見えた。 「あいつ様子がおかしいぞ、なにかあったのか。」 「いや、何でもないんだ……。」 彼の様子が違う原因は知っているが、それは二人だけで秘めている。 石川も村瀬も古鷹山での出来事は決して他の生徒には話せなかった。 誰かに話そうとすると、この世界のものと異なる不思議なオーラと周りの空間との温度差を生々しく思い出してしまうからだ。 それが恐ろしいのだ。まるで自分がどこか異次元にとばされて、この世に存在するという感覚がすっと消えていくような錯覚に陥る。 (村瀬…貴様は感受性が強いから特に影響を受けてしまう……。) うつろな彼の肩にゆっくりと手を置いた。 あれは何だったのか、疑問は募りゆく―――――――
2006.12.15(Fri)
彼は哀愁を秘めると言うのか、何か特別な感情を込めた風に我々を見つめた。 だが次の瞬間、それは弟妹を見るような暖かいものに変わり口元に笑みを浮かべる。 「君達は兵学校の生徒さんだね。」 男の目線は村瀬の手中の書物に行く。 「葉隠か………。」 かつて愛読した葉隠の一説が風が通り過ぎるようにふっと男の頭の中によぎった。 我人 生クル方ガ好キナリ。多分好きノ方ニ理が附クベシ。 若シ図ニ外レテ生キタナラ腰抜ケナリ。コノ境危キナリ。 図ニ外レテ死ニタラバ 犬死気違ヒナリ。恥ニハナラズ。 コレガ武道ニ丈夫ナリ。 「60年後の世にもそのような武人的訓示が残っていて欲しいものだ…。」 そう言い残すと男はくるりと背を向けて立ち去ろうとした。 「待ってください、貴方はあの軍艦にお乗りになった事があるのであるのではありませんか。」 村瀬生徒はこの男を引きとめた。 先ほどから、謎の軍艦とそのオーラの匂わせた妙な男の関係がどうしても気になるのだ。 【60年後〜】などと言う言動は常人ではないのと同時に、只者ではないような感がする。 「あぁ…乗った事があるさ、君も乗って見るかね。」 少年のような村瀬の表情に優しく笑みを浮かべた謎の男は 古鷹山の森林の中へ消えていったのだった。
2006.12.14(Thu)
ある日、石川村瀬両生徒は古鷹山に登った。 地球の引力に苛まれる険しい山道だったが、一年間受けた兵学校の猛訓練は それを感じさせない強靭な足腰を作り上げていた。 青々とした古鷹山にも一箇所だけ開けた場所がある。 そこは二人のお気に入りの広場である。 天気の良い日は必ずここで弁当を食べると決めていた。 生い茂る木々に邪魔をされず、広大な海と軍艦を観覧できる特等席だ。 「おっ扶桑が来ている。」 最初にこの場所を見つけたとき、 湾に止まる戦艦大和を眺め感動したのは昨日の事のようだ。 「貴様、また葉隠を持ってきたのか。」 飯の時も本にかじり付く隣の男に、この頃少々呆れていた。 「目が悪くなるぞ、少しは遠くの景観を眺めろ。」 「む……、おい石川あれは何だ。」 先ほどまでは見かけなかった軍艦が見えた。 隣に並ぶ扶桑とは明らかに見かけも造りも違う、遠くから見ても異種の艦だった。 その艦は何か周りのものと交わる事のできないオーラがあった。 「空気が違う……。」 この世界の如何なる物とも交わらない、其処だけが妙に浮いて見えた。 謎の軍艦に見惚れていると、親友がこっそりと声をかける。 「村瀬、あの男は誰だ。」 向こうの岩の上で海を眺めている男は、この辺りでは見かけない者だった。 こげ茶色の帽子に背広の彼は日本人にしては色白で髪の色が少し薄く、 水晶のように澄んだきれいな瞳をしていた。 「あれは…。」 あの人、あの軍艦の空気がついている。 その言葉が喉本までこみ上げたがゆっくりと飲み込んだ。 何者だろうかと話していると、謎の男はこちらに気がついたようだ。
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